「ニコラス、天鳳みたいに打つのはやめなさい」
これまで出会ったプロの方々から、ほぼ全員と言っていいほど言われてきた言葉です。
私は天鳳を10年以上打っていて、鳳凰卓にも行きました。十段や天鳳位の方々と交流する機会もあります。天鳳は大好きですし、悪く言うつもりはまったくありません。ネット麻雀がリアル麻雀より上だとも、その逆だとも思っていません。
それでも、天鳳「だけ」で麻雀を覚えると、リアルの卓に座ったときに思わぬところでつまずきます。第16期新人王戦の決勝に出たときも、配信を見ていた方々から、Twitterで「天鳳っぽく打ちすぎ」という声をいただきました。今回は、その理由と、天鳳とのうまい付き合い方について書いてみます。
天鳳のルールは「標準」ではない
天鳳の段位戦は、4着のペナルティがとても重い仕組みです。たとえば特上卓の半荘戦で5段の場合、2着と3着の差は30ポイントですが、3着と4着の差は105ポイントあります。段位が上がるほど4着のマイナスは大きくなり、1着と2着の加算は卓ごとに決まっていて変わりません。
一般的な順位ウマは、1着から4着までほぼ対称です。多くのルールではオカもあって、いちばん大きなご褒美は1着に置かれています。天鳳はその逆で、いちばん大きな罰を4着に置きました。
私は、これはネット麻雀ならではの問題への答えだったと理解しています。ネットでは、大きく離されたプレイヤーが回線を切って抜けてしまうことがあります。4着を重く罰すれば、最後まで3着を目指して打ち続ける理由が生まれます。とてもよくできた仕組みです。
ただ、その結果として、天鳳で段位を上げるいちばんの近道は「たくさん勝つこと」より「4着を避けること」になりました。リアルの多くのルールとは、そもそも目指しているものが違うのです。
天鳳で自然に身につくこと
勉強をせず、「段位が上がればうまくなっている、下がれば下手になっている」という基準だけで打ち続けても、次のような力は自然と伸びていきます。
- 和了率を上げること
- 放銃率を下げること
- オリるときの打牌順
- 点差の判断
特上卓あたりで打ち続けていれば、多くの人がこのあたりは上手になります。それ自体はすばらしいことです。
一方で、天鳳だけではなかなか身につかないものもあります。
- 打点を上げること(和了巡目が遅くなっても、役を重ねにいく判断)
- さまざまなウマのルールでの押し引き
- 回し打ちのように、相手の手をかわしながら前に出る打ち方(祝儀があるルールでは特に大切です)
天鳳はスピードが重視されるぶん、役を追いかけて大きな手を作る機会が少なくなります。ほかのルールで打つと、ここで差がつきます。
五分の勝負をどう考えるか
たとえば、ある勝負に出ると、トップになるか4着になるかが半々だとします。
一般的なルールなら、トップと4着を1回ずつ取れば、たいていトータルはプラスです。Mリーグのルールなら、順位点はトップが+50(オカ込み)、4着が-30です。つまり、五分の勝負は基本的に自分に有利です。
天鳳の段位戦では逆になります。特上卓の半荘戦で5段なら、トップで+75、4着で-105です。五分の勝負を受けるほど、ポイントは減っていきます。
そのため天鳳では「五分の勝負は避けろ」と言われますし、天鳳ではたいていそれが正しい判断です。問題は、なぜそれが正しいのかを考えないまま繰り返すことです。そうすると、本来は受けるべき勝負まで避けるのが癖になってしまいます。天鳳でしっかりした「システム」を持っている人が、ほかのルールで長い目で見ると負けてしまうのを、私は何度も見てきました。
天鳳の下の卓では、次のような格言をよく見かけます。
- ノーテンで押すのは罪
- 3着は4着よりはるかにまし
- スピードがすべて
- 五分の勝負は避ける
- 即リーが正義
天鳳の上のほうの卓では、みんなこれらがいつも正しいわけではないとわかっています。ただ、下のほうでは「AならB」というわかりやすいルールとして広まりやすいのです。
私はこう考えています。「天鳳の6段までの道は単純です。麻雀はそこから始まります。」
同じ6段でも、安定段位が5段くらいの人もいれば、8段くらいの人もいます。打ち続けているうちにたどり着いた6段と、理屈を理解して届いた6段とでは、その先がまったく違います。
リアルの卓でつまずくところ
天鳳だけを打ってきた人がリアルの卓に座ると、ベテランの打ち手に簡単にやられてしまうことがあります。気軽な仲間内の麻雀の話ではありません。天鳳でしっかり準備してから雀荘デビューした鳳凰卓の打ち手が、そうなるのも見てきました。逆に、リアルで強い人がネットで大きく崩れるのは、あまり見たことがありません。
見落とされがちなのは、たとえばこんな違いです。
- 鳴ける牌が出ても、ゲームは止まってくれません。常に自分で気づく必要があります
- 自分の手番でもテンポを保たなければなりません。持ち時間はありません
- 目の前に人がいる環境で、落ち着いて集中し続けるには慣れが必要です
- 理牌のしかたや表情から、余計な情報を相手に渡さないように気をつけます
- 点数計算も、すべて自分の頭でやります
天鳳ではチョンボが起きません。でもリアルには、フリテンを教えてくれる機能も、自動であがる機能もありません。安全網が一つもないのです。
和やかな仲間内の麻雀なら、こうしたことはほとんど問題になりません。ただ、真剣勝負の場になると、小さなミスが積み重なっていきます。そして、相手はそのミスにつけこんで勝ちます。
漫画『鉄鳴きの麒麟児』の1巻を読むと笑ってしまうのは、こういうことがリアルに描かれているからだと思います。
負けたときに出てくる言葉
リアルで負けたとき、こんなふうに感じたことはないでしょうか。
- 「みんな守備が下手で、見え見えの手に振り込む。天鳳ならありえない」
- 「一回も振り込んでいないのに負けた。ずっと振り込んでいた人が最後に大きい手をあがって、誰も止めなかった」
- 「考える時間も鳴く時間もくれない。マナーが悪い」
- 「牌効率どおりに打っていないから、読めない」
もしそう感じたことがあるなら、厳しいことを言いますが、問題は自分のほうにあります。相手が下手だったからでも、理不尽だったからでもありません。負けたのは、そのルールで自分がほかの3人より強くなかったからです。
ウマが違えば打ち方が変わるのは当たり前です。天鳳の打ち方をそのまま持ち込んでも、まともな相手には通用しません。
天鳳の上手な使い方
では、天鳳はやめたほうがいいのかというと、まったくそんなことはありません。
私のおすすめは、天鳳を「インプット」ではなく「アウトプット」の場として使うことです。戦術書を読む、強い人と検討する、自分の牌譜を見てもらう。そうやって学んだことを、天鳳で試します。本当にうまくなっていれば、成績は自然とついてきます。やみくもに打数を重ねる必要はありません。
いつでも真剣な相手と打てて、成績を測るのに十分な数の対局ができる場所は、ほかにそうありません。強いリアルの打ち手の多くが天鳳も打っているのには、ちゃんと理由があります。
そして、強い人が天鳳でも勝てるのは、強い人ほどどんなルールにも適応できるからだと私は考えています。目指したいのは、ルールや状況に合わせて打ち方を変えられる打ち手です。「AならB」という決まりごとをなぞるだけでは、そこまではたどり着けません。
天鳳で段位を上げることも、リアルの卓で勝つことも、どちらも大切です。ときどきほかのルールでも打ってみると、自分の判断の理由を考えるきっかけになります。天鳳しか打っていない方は、ぜひリアルの卓にも座ってみてください。
この記事は、英語圏の雀士向けに npmahjong.com で書いた「Tenhou mahjong server: a warning for new players」を、日本の読者向けに書き直したものです。(元の記事(英語))



