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仕事とIT

麻雀プロが仕事でも使っている押し引きの考え方

麻雀プロが仕事でも使っている押し引きの考え方

オーラス、あなたは子の2着目で、トップとの差は1500点です。ここでタンヤオ・ピンフのテンパイが入りました。56の両面で47待ち、ダマで2000点の手です。リーチをかけますか?

反射的にリーチしたくなるところですが、ここはダマが正解です。出和了りなら誰からでも2000点、ツモれば700・1300で2700点になるので、どう和了っても逆転トップで終局します。打点を上げても着順は変わりません。

一方でリーチには、はっきりしたコストがあります。供託に1000点棒を出すこと、手牌を変えられなくなること、そして「テンパイしています」と卓全体に知らせてしまうことです。トップ目はあなたに和了られずに終わりたいので、リーチが入った瞬間にオリてしまいます。ダマにしておけば、トップ目は自分の和了りを目指して押してくるので、そのぶん4や7が出てくる可能性も高くなります。

同じ手牌でも、東1局の平場なら話は別です。先制の両面テンパイならリーチが基本で、出和了りなら2000点が3900点とほぼ倍になり、ツモや一発、裏ドラが絡めばさらに伸びます。リーチをかけるだけで、ほかの3人に押すかオリるかの判断を迫ることにもなります。手牌は同じでも、目的が変われば正解も変わるということです。

私は2017年から日本プロ麻雀協会のプロとして打っていて、本業ではリモートでIT企業に勤めています。卓で覚えた考え方は、仕事の判断でも使っています。この記事では、そのいくつかを麻雀の話を中心にまとめます。

勝ちが決まる手にリーチはいらない

仕事にも、さきほどのオーラスと同じ場面があります。今の条件のまま話がまとまれば目標には届くのに、ついでに大きな追加の提案を乗せたくなる。これは、和了ればトップの手にわざわざリーチをかけるようなものです。数字の上では大きく見えますが、手の内を見せることで相手は慎重になり、自分も後から引っ込めにくくなります。決まる話はダマで静かに決めて、次の話はあらためて別の局として持っていく方がいいと思います。

逆に、関係が始まったばかりで良い材料(良い待ち)がそろっていて、まだ失うものもない場面は東1局です。ここでは大きな提案をはっきり打ち出すべきです。

押し引きは、見えない情報の中での判断

他家からリーチが入ったとき、分かっているのは「テンパイしていること」と「河に何が切られているか」だけです。待ちは見えません。そこから先の一打一打は、不完全な情報のもとでの小さな賭けです。当たれば放銃で、相手の和了り点を一人で払うことになります。

判断材料は、それほど多くありません。

満貫の両面テンパイなら、基本的には押していい場面です。安手の1シャンテンで危険牌を掴んだら、オリます。手を崩して、まずは現物から切っていきます。

判断に入れてはいけないのが、その手にかけてきた巡目です。「ここまで育てた手だから」は押す理由になりません。使った巡目は、押しても引いても戻ってこないからです。

もう一つ避けたいのが、中途半端な押しです。危険牌を2枚通してから3枚目でオリるのは、リスクだけ取ってリターンを捨てているのと同じです。早めに決めて、決めたら貫くことが大切です。

仕事の交渉でも、見るところはほぼ同じです。まとまるまでどのくらい近いか、どれくらいの規模の話か、決まるルートは複数あるのか、それとも一人の「はい」にすべてがかかっている単騎待ちなのか。そして、押すことのコストは何か。翌年まで尾を引く条件や、チームの数週間分の時間、この先も必要になる関係などです。相手の気持ちがはっきり他に向いていて、自分の手が安くて遅いなら、オリます。ベタオリした局は、たいてい大きな失点をせずに終われますし、交渉もきれいにオリれば、関係は次の局のために残ります。

結果ではなく判断で評価する

「放銃する可能性があっても、切るべき牌は切る」。麻雀を教えるときにも伝えたいと思っている考え方です。

満貫の両面テンパイでリーチに押して、跳満に放銃したとします。押しが正しい判断だったなら、結果がどうであれ正しいままです。期待値とは、同じ場面を何千回と繰り返したときの平均のことで、1回の結果からはほとんど何も分かりません。

麻雀なら、何千局と打つうちにこれを体で覚えることができます。仕事の大きな判断はずっと数が少ないので、1回の結果から間違った教訓を引き出しがちです。対策としては、結果が出る前に判断を書き残しておくのが効きます。何を知っていたか、何を選んだか、何が分かっていたら判断を変えていたか。振り返るときは、結果よりもそのメモと照らし合わせます。自分の判断について牌譜検討をするようなものです。

河を読む、相手を読む

捨て牌は誰にでも見える情報で、多くのことを教えてくれます。10巡目まで、ほかの色は切っているのにソーズだけ1枚も切っていない人は、ソーズの染め手に向かっている可能性が高いです。ずっとツモ切りしていた人が急に手出しをしたら、手の中で何かが変わった合図です。どれも確実ではありませんが、確率は動きます。それで十分です。

仕事の相手も、捨て牌を残しています。価格以外のことは何でも聞いてくる人は、おそらく価格を決める立場の人ではありません。毎週だった打ち合わせがいつの間にか月1回になった、会ったことのない部署の人がメールに加わった。こうした変化は手出しです。相手の手の中で何かが変わったので、押す前にそれが何なのかを確かめたいところです。日本の会社では会議の前に根回しで方向性が固まることも多く、会議室で見えているのは卓のほんの一部にすぎません。

大きな放銃の後の一局

南1局で子の跳満に放銃し、トップからラスに落ちたとします。次の局は、どんな牌でも押せそうな気がしてきます。

誤解しないでほしいのですが、上との点差が開いたのなら、際どい場面で少し前に出るのは理にかなっています。点数状況が変われば、押し引きの基準が変わるのは当然です。でも、イライラしていることは押す理由になりません。自分に問うのは一つだけです。さっき12000点を失っていなかったとしても、この牌を押すか。

仕事でも、前の話を落としたからといって次の話で無理に値引きしたり、イライラした勢いで強い言葉のメールを送ったりしたくなることがあります。失った点数が、次の局で戻ってくるわけではありません。一局だけペースを落として、それから普段通りに打てばいいのです。

ネット麻雀とリアル麻雀は別のゲーム

私は天鳳で育ち、今は日本のリアルの卓で打っています。この二つは別のゲームで、どちらが上ということもありません。ネットは速くて匿名で、膨大な数の局をこなせます。天鳳の段位戦は段位が上がるほどラスの減点が大きくなり、上の段位ではトップの加点より重くなるので、強いネット雀士はラス回避がとてもうまいです。リアルの卓では、ルールが店や大会ごとに違いますし、同卓者は前回のあなたの打ち方を覚えていて、打牌前の迷いも全員に見られています。

仕事も同じように分かれます。時差のある相手とのチャットは、ネット麻雀です。速くて、文字で残り、転送しやすく、会ったこともない人にまで読まれます。東京の会議室はリアルの卓です。進みはゆっくりで、提案の後の沈黙が言葉と同じくらい多くを語ります。

惰性で打たない

派手な押しのミスは、牌譜を見返せばすぐに分かります。長い目で見てもっと高くつくのは、たいていはそれで合っているからと、考えずに切ってしまう小さな打牌のほうです。残す牌を間違える、崩す形を間違える、癖で切ってしまう、といったものです。

仕事の決まった作業も同じです。去年と同じやり方で回しても、たいていはうまくいきます。それこそが問題で、違う打ち方が必要だった一件も、手遅れになるまではほかと同じに見えてしまうのです。

惰性で打たないこと。切る前に、一度考えてみてください。


この記事は、nikorasu.devに掲載した「麻雀プロが仕事で使っている『押し引き』の考え方」を、このブログ向けに書き直したものです。(元の記事)


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