2016年に大阪へ引っ越しました。日本に来た目的は麻雀で、最初の仕事もいかにもそれらしいものでした。いくつかアルバイトをした後、雀荘のメンバーとして働き始めました。
今はIT業界で、大阪からリモートで働いています。ただ、この仕事をするつもりで日本に来たわけではありませんし、計画どおりに進んだわけでもありません。日本に着いたばかりの自分に手紙を送れるなら、こんなことを書くと思います。海外から日本に来て働きたい方はもちろん、そういう人と一緒に働く方にも、何かの参考になればうれしいです。
仕事で使う日本語
JLPT(日本語能力試験)はマークシート式で、話す力や書く力は問われません。履歴書に書ける資格としては便利ですが、職場でやっていけるかどうかの目安にはあまりなりません。仕事で求められるのは、メールを書く、チャットに返信する、作業が遅れている理由を説明するといった、自分で日本語を組み立てて伝える力だからです。
私なら、次の順番で練習します。
読む力
オフィスでの一日は、ほとんどが読む時間です。チャットのスレッド、仕様書、議事録、社内Wiki、契約書。会話なら文脈と相手の優しさで何とかなりますが、10ページの仕様書は自分で読むしかありません。「日本語で雑談ができる人」と「日本語で仕事ができる人」の差は、漢字を読むスピードに表れます。
ビジネス文書
日本語のメールやチャットには型があって、2週間もあれば覚えられます。まずは次のフレーズを押さえておけば十分です。
| フレーズ | 使う場面 |
|---|---|
| お世話になっております | ほぼすべてのビジネスメールの書き出しに |
| 恐れ入りますが | 何かをお願いする前に |
| ご確認のほどよろしくお願いいたします | 依頼の締めくくりに |
| 承知いたしました | お客様や目上の方には「了解です」ではなくこちらを |
| 取り急ぎ | 詳しい返信の前に、まず一報を入れるときに |
敬語
敬語は、大きく分けると丁寧語、尊敬語、謙譲語の3つです。丁寧語はどこでも必要で、尊敬語と謙譲語はお客様とのやり取りや文書で出番があります。活用は覚えてしまえば済みますが、その場で誰が上なのかを読み取れるようになるには経験が要ります。外国人に完璧を求める人はまずいません。ただ、使おうとしているかどうかは、ちゃんと見られています。
雀荘のメンバーは、シフトの間ずっと、お客さん相手に丁寧な日本語をテンポよく話し続ける仕事です。日本語の学校としては、なかなか優秀です(しかもお給料が出ます)。
報連相
最後は、結論から話すことと、悪い知らせほど早く伝えることです。報連相(報告・連絡・相談)は社内ポスターの標語のように聞こえますが、日本のチームで信頼されるには、これが一番の近道です。
履歴書と職務経歴書
日本の会社の多くは、応募書類として履歴書と職務経歴書の2つを求めます。海外から来た人は、力を入れる方を間違えがちです。
履歴書は書式の決まった書類です。学歴と職歴を時系列で書き、免許・資格(JLPTはここに書きます)と志望動機を埋め、多くのテンプレートでは写真も貼ります。IT企業なら、パソコンで作ったもので問題ありません。丁寧に埋めれば十分なので、週末を丸ごと使う必要はありません。
面接につながるのは、職務経歴書の方です。書式は自由で、A4で2〜3枚にまとめるのが一般的です。骨組みはこんな感じで大丈夫です。
職務経歴書
20XX年X月X日現在 氏名 〇〇 〇〇
■職務要約
(3〜5行。何年、どんな仕事をしてきて、何ができるか)
■職務経歴
20XX年X月〜現在 株式会社〇〇(従業員数〇〇名)
事業内容:〇〇
担当業務:〇〇
使用技術:TypeScript, React, Next.js, 〇〇
実績:〇〇
■活かせる経験・知識・スキル
■語学
日本語:ビジネスレベル(JLPT N〇)
英語:〇〇
■自己PR
一番大事なのは、冒頭の職務要約です。何年、どんな仕事をしてきて、何ができるのかを3〜5行で書きます。最初に読むのはエンジニアではなく人事の方ということも多いので、どちらにも伝わる言葉を選びましょう。
ほかに気を付けたいのは、次のような点です。
- 求人に「英語可」とあっても、日本語で書く。相手が最初に目にする、あなたの日本語の文章です。
- ネイティブにチェックしてもらう。翻訳アプリではなく、職務経歴書をたくさん読んできた人が理想です。
- チームの成果を1段落書くより、自分がやったことを具体的に1文で。担当範囲、使った技術、公開できる範囲の数字を入れます。
- 転職理由は前向きに。「前の会社ではできなかった」より「〇〇を作りたい」の方が伝わります。
3つ目は特に強調しておきたいところです。読む側は「この人がチームに入ったら何をしてくれるのか」を知りたいので、主語が「私たち」のままだと判断ができません。
転職エージェントは企業側が費用を払う仕組みなので、書類の添削も無料で手伝ってくれます。うまく活用してください。ただし、最初の下書きは自分で書くことをおすすめします。自分の言葉で一度書いておくと、面接で同じ内容を話すときにも詰まりにくくなります。
勉強会はconnpassで探す
日本のIT系イベントは、ほとんどがconnpassに載っています。勉強会、LT会、ハッカソン、企業のミートアップ。たいていは無料か、かかっても懇親会の飲食代くらいです。
アドバイスは2つあります。1つ目は、懇親会まで残ること。登壇の内容は後でYouTubeに上がることも多いですが、懇親会での会話は上がりません。
2つ目は、2〜3回参加したら、5分のLTをしてみること。登壇者には向こうから声をかけてもらえますが、参加者は自分から話しかけに行くしかありません。日本語が完璧でなくても、自分で作ったものの話は、きれいにまとまっただけの中身の薄い話より長く覚えてもらえます。
イベントの数は東京が圧倒的ですが、今はオンライン配信も多いので、大阪に住んでいることは昔ほど言い訳になりません。
ほかの言語も武器になる
海外から日本に来ると、ほかの言語はおまけで、大事なのは日本語だけだと思いがちです。でも、そう考えないでください。
日本語で日本人のエンジニアに勝つことも、英語でネイティブに勝つことも、まずありません。勝つ必要もありません。日本のお客様と海外のチームの間に立って、お互いが納得できるように橋渡しをする。それだけで立派な仕事です。海外に出ていく日本企業にも、日本に入ってくる海外企業にも、そういう人が必要です。私自身も、日本語と英語とスペイン語を行き来しながら仕事をしてきました。
言語の勉強そのものについては、2019年に麻雀ウォッチさんの取材でもお話ししました。
焦らず、積み重ねる
振り返ると、身に付けたことはどれも、その前に覚えたことを土台にしています。お客様と話しながら日本語と仕事の進め方を覚え、日本の会社がどうやって物事を決めるのか(稟議や根回し)を間近で見ました。仕事を楽にするためにJavaScriptで小さなツールを書き始め、そこからReactやNext.js、TypeScriptも使えるようになりました。どれも、最初から狙っていたものではありません。
日本に来た翌年の2017年には、日本プロ麻雀協会に入ってプロにもなりました。麻雀をやっていると、1局の結果では何も分からないこと、正しい判断を積み重ねれば長い目で見て結果がついてくることが、身に染みて分かります。キャリアも、自分で歩いてみると麻雀によく似ています。
だから、2016年の自分へ。肩書きが思っていたものと違っても、一日中日本語を使う仕事を選んでください。そして、今ある武器の隣に、スキルを一つずつ足していってください。
まずは今月、connpassで気になるイベントに一つ申し込んでみましょう。
この記事は、nikorasu.devに掲載した「日本のIT業界で働きたい人へ。2016年の自分に伝えたいこと」を、このブログ向けに書き直したものです。(元の記事)



